朝からセミの声が聞こえる。
子供の頃、私はこのセミという生き物が大好きだった。そのため、夏休みは朝から宿題をやっつけたあと、大急ぎで虫取り編みと虫かごを抱えて近所の果樹園に向かった。セミを獲るのだ。
ところで、あなたはセミの種類をご存知だろうか。梅雨が終わり夏の始まりにまず鳴き出すのはアブラゼミ、ジジジという声が特徴。続いて7月終わり頃からミーンミーンの鳴き声でおなじみミンミンゼミが姿を現す。8月を10日過ぎる頃にはツクツクボウシが、ツクツクオーシ、ツクツクオーシと大合唱を始める。そしてお盆の後にヒグラシがカナカナカナ…と歌い出す。ヒグラシの鳴き声はどことなく切なくて、夏の終わりの寂しさと夏休みの宿題をまだ終えていない現実に引き戻され、焦らされた。
ちなみにここに書いたセミの知識は一切調べていない。セミの鳴き声が交代することで夏の移り変わりを感じていた、小学校の頃の記憶を書いただけである。(正確さに欠けていたらすみません。)
そんな私はある時からセミ獲りができなくなった。
「セミは幼虫の時期を5年間土中で過ごし、ようやく地上に出ても2週間で死ぬのです。」との図鑑の説明文を読んだからである。衝撃的だった。なんてことだ。あの飛んで歌って暮らしているお気楽そうなセミたちがたったの2週間の命だったとは。かわいそうに…。私は簡単にセミを捕まえて虫かごにいれていた自分を猛省した。そんな短命なのならば、悔いの無い人生、いやセミ生を存分に楽しんでもらわなければならないと。以後、私は飛ぶセミを見つけても「強く生きろよ」とエールを送るだけとなった。
でも、大人になってから気づいたこと。
セミの人生は5年と2週間。地上に出る生活がたった2週間しかないから短命でかわいそうだ。なんてことは、人間からみた勝手な決めつけなのだ。もしかすればセミの生涯は土の中、生まれて、家族や友達と会って、学校に行って、歌って、踊って、食べて、笑って、5年間ものすごくハッピーなのかもしれない。ひょっとして、私たちが知るあの飛ぶセミの姿は最終形態で、いわば仙人みたいなものかもしれない。彼らはセミ生を精一杯生きた後、悟りを得て文字通り一皮むける(羽化)。現世(土)にサヨナラを告げ、天界(地上)に昇天する。最後の役割は季節に彩りを付けること。セミ生で素晴らしかったことや楽しかったこと子々孫々に伝えたいことを仙人として声高らかに歌い語り続ける。そして、それがセミの鳴き声、夏の最高のBGMなのである。想像だけど。
誰が幸せだとか不幸せだとか、自分の勝手なものさしで他人を測ることはできない、と今年もセミの声を聞きながら思う。
Be ambitious, boys and girls!
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