季節は巡り、高校3年生の夏となったけれど、手紙のやりとりは続いていた。
夏休みに『受験勉強の息抜きはどうでしょう?』と、先に声をかけたのは私だ。地元では毎年、大きな夏祭りが開催される。私も中学の頃まではクラスのともだちと出かけていたし、その人が友人達と来ているのを見かけたことも何度もあった。そこに一緒に行かないかということ。どんな反応が来るかちょっと緊張したけれど、『ぜひ。』との返事が届いたのはわずか三日後だった。
当日は浴衣を着た。曾祖母が仕立ててくれた紺地に折り鶴の模様のものだ。着付けてくれた母のなんとなく笑いをこらえた顔を見ないようにして、家を出る。中学の卒業式以来だから、その人と顔を合わせるのは2年半ぶり。まさかお互いを認識できなかったらどうしようなどと考えていたけれど杞憂だった。
屋台を流し歩いているうちに、割とすぐに打ち解けた。それまで送り合った手紙の内容で気になること・・・部活の最後の大会についてとか、通っている予備校の夏期講座の情報交換とか、志望大学のこととか、話題は様々にあったのだ。ただ、久しぶりに話せて楽しかったけど、ザ・地元の夏祭りだったので、同じようにウロウロしていた同級生たちの好奇の目にさらされるはめになった。『なんでお前ら、二人でいるわけ?』と聞きたげな彼らの視線を避けるように「あ、ほら!金魚すくい!」と逃げた。後ほどその人は何人かにつかまってなにやら聞かれていた。やめてほしいなぁ、もう。とりあえず、見ぬふりをした。
夕ご飯に屋台の焼きそばを食べてから、夜の打ち上げ花火を見るためにちょっと小高い坂に登り、並んで腰をかける。何百発もの花火が華やかで艶やかで、綺麗だった。 素敵な息抜きになったと思った。
夏祭りの後、しかし何が変わったということもない。
その後も『受験、お互いにがんばろう。』と手紙を送り合う友人で居続けた。 やがて数ヶ月が過ぎ、それぞれに進路が決まった。その人は無事、K大の経済学部に合格し、私はアメリカのN大に入学が確定したのだ。アメリカは秋から新学期が始まる。私は家にほど近いコンビニでアルバイトを始めた。進路の決定した高校3年生の三学期はとにかく暇なのだ。渡米するまではできるだけ働きたかった。
アルバイトに勤しむある日、私はふと思いついて、その人にこう書き送った。
『私、近くのコンビニでバイトをしてるのだけど、まだ募集中なんだ。よかったら、〇〇くんも、ここで働かない?』と。雪がちらつく、一年で最も寒い頃だった。
2週間後、その人は、私と同じコンビニでアルバイトを始めた。
(バイト編へつづく)
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