随分前のことだが、駅前で歌っている青年を見たことがある。
いわゆるストリートミュージシャンのようだ。彼は通りのちょっと広い歩道の片隅に座ってギターで弾き語りをしていた。その日は天気が良かったので、道行く人はのんびりとした表情で行き来している。私は友人と会っていた。2人で駅の通りに立ったまま、ランチはどこにしようかと話していたのだが、図らずもその場所がちょうど彼が歌っている場所から5メートル程の位置だった。特に注意を払っていたわけではないが、場所の検索に勤しみながら、なんとなく歌声を聞いていた。オリジナル曲だろうか、結構上手かったと思う。しかし、弾き語る彼の前を通り過ぎる人は結構いたけれど、誰も足を止めることはなかった。
やがて私たちが目的地を決めて歩き出す数秒前、ちょうど彼の演奏が終わった。観客は誰もいないと見えたが、一人の若い女性が、彼の元に駆け寄ってきた。笑顔で、お疲れさまと声をかけた彼女に、ミュージシャンは吐き出すようにこう答えた。「たったの二人しか聴いてくれなかった。」ちょうど彼等の横を通り過ぎていた友人と私は思わず顔を見合わせた。“ふたりって、私たちのこと?”、“そうじゃない?ずっと近くで立ってたし。” どうやら観客と間違われたらしい。パフォーマンスが終わったタイミングで歩き出したのだからそう見えたとしてもおかしくはない。それはいい。
私たちは日頃、数の多い方が勝ち、優れていると自動的に思い込みがちである。もちろん、数が多いこと自体は素晴らしいのだが、プロは数の多さだけでなく、本質にもフォーカスすべきである。それは、例えわずかであっても観客が居ることに、まず感謝すること。そして何人だろうが時間を割いてくれた人たちのために、最高のパフォーマンスを届けようという情熱を持つこと。そういう人からは数の多少で不満が出ることはない。それがプロと呼ばれる人たちである。そもそも、目の前のたった2人の観客の価値を認められない人が、20人や200人の観客を大切に出来るだろうか。私はそうは思わない。
現在私は少人数のクラスを指導している。生徒は1人でも、10人でも、例えば100人いたとしても、彼等が勉強を楽しみ、やる気を出し、挑戦を恐れず、大きく成長していって欲しいとの情熱は、変わらずいつも持ち続けていたいと願う。
プロは常にプロであれ。
あなたについて来てくれる人が1人でもいるのなら、その人を心から慈しむことだ。
be ambitious, boys and girls!
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