一期一会~タイ編①~の続きです。
タイ料理レストラン「R」は、やや街はずれにあるようだった。
ホテルのタクシーで近くだと思われる大通りで降ろしてもらい、辺りを見回す。確か大通りを進んでいって目印の建物で横道に入る。細い道を少し歩くと「R」が見えてくるとガイドブックにあった。
ところで私は海外旅行で危険な目にあったことはほとんどない。君子危うきに近寄らず。海外生活で多少得た経験から、「ここは怪しい」と思える通りや街の雰囲気がなんとなく分かるようになった。基本的にはややこしそうなエリアを避けて行動する。が、思いがけずそういう場所に遭遇してしまったら、一目散でそこから去る。危なそうな場所はエリアが決まっていることがほとんどなので、道を一本逸れるだけひと区画移動するだけで回避できる。タイは穏やかな国だけれど、スリや置き引き、ぼったくりなどの被害に遭う旅行者がいないわけではない。気をつけないと。
私はそれなりに周りを注意しながら「R」の方向へ歩き出した。大通りを進んで右折して…あれ、ない。曲がる方角を間違ったのか。少し戻ってみる。やはり、見つからない。もしかして右折が早すぎたのかと、また大通りに戻り、再度歩き、一本手前で曲がる。妙だ。レストランの影も形もない。
やがて少しずつ日が傾き始めた。海外では、昼間は安全でも夜になると急に様変わりする地域も多くない。ましてやここはバンコクの中心地からちょっと離れた場所。いくら大通りといえども、あまりに長くウロウロしていると「私は迷っている旅行者です。襲ってください。」と自ら宣伝して回るようなものだ。でも、肝心のレストランが見つからない…
そこは確かに大通りなので私の横を車がビュンビュン走っているが、運悪く通行人がほとんど歩いていないのだった。つまり道を尋ねる人すらいない。でもこうも人通りがない道で遭遇した人が果たして信用に値するかはわからない、もし悪い人だったら。もう諦めて帰ろう。何とかしてタクシーを捕まえたいと私は思った。でも、タクシーなどどこにも見当たらない。どうすれば。
暮れゆく通りに祈る気持ちで心細く立ち尽くしたその時。急に背後から声をかけられた。
(続く)
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