夢から醒めた恋⑤

私は「言葉」をとても大事にしている。ゆえに自分の言いたいことを100%正しく言い表せたときに、最も幸せを感じる。だから必要な人に必要なタイミングで必要な言葉を伝えることが自分自身の生涯のミッションであるかもしれないと、今では思うくらいだ。


当時はそこまで気づいていなかったけれど、ショウさんには、自分の真実を言葉にできないことは、苦しかった。自分を偽って話すことをいつまで続ければ良いのだろうと思う度辛かった。


その瞬間は、しかし、全く予期しない形で訪れた。


その日もショウさんとの電話で、少し話したあと、私はリカさんのことを尋ねた。「元気にされてるの?」彼は応えた。「元気だよ、でもさ」二人は今年中に婚約することになりそうだとアキさんから聞いていた私は、わざわざ自分が辛くなることをなぜ話題に出してしまったのだろうとわずかに後悔した。


が、ショウさんは「Yに聞いてほしいことがあるんだけど」と切り出した。そして「実は本当にこのまま彼女とつきあってていいのかって思い始めちゃってさ・・・」とケータイの向こう側で声のトーンを落とした。


それだけなら、私も同じように深刻に考えただろう。だが、彼はこう続けたのだ。

「自分にはもっと、ふさわしい女性がいるのじゃないかって・・・」

私は尋ねた。「ふさわしいって、例えば誰のこと?」「例えば、年は結構下でもメールとか電話とかで気兼ねなく話せて、海外で生活してた俺のことをよくわかってくれて、妹みたいな身近な存在の人・・・とか。」鈍くても気づかざるを得ない。私のことを指している。

その時の私の気持ちを誰が理解できよう。

それって、私のことだよね?ショウさんの「妹」としてショウさんをずっと応援していた私、気持ちに蓋をしながらショウさんを思い続けた健気な私に、やっと気づいてくれたんだね!嬉しい!!!


なんて事に、なるはずない。

私は腹を立てた。ものすごくムカついた。頭によぎった思いは「ふざけるんじゃないよ」だった。リカさんの気持ちを考えたことがあるのか。アキさんの気持ちを。そして他のいろんな女の子のことを。そもそも婚約しようとまで思う人との将来が不安なら、なぜその彼女に直接話さないのか。どうして無関係な私に言うのか。しかも何のためにわざわざ私に気のあるそぶりを見せるのか。万一私に思いを抱いているなら、まず、リカさんと別れるのが先だろう。まるでレストランで自分がオーダーした料理を目の前に置いて、よそ見をした先の料理が旨そうだから貰えないかと伺ってくるようなものじゃないか。お詫びして目の前の料理を下げて貰ってから別の料理を注文する勇気もない、臆病者だと思った。私は長い間ショウさんへの想いを隠していた。自分の忍耐が彼の幸せになるのならと思い、辛かったけれど幸せだった。私の方がよっぽど潔い。


私は自分の言葉を取り戻すことができた。

「ショウさん」はっきりと伝える。こんな自分の声は聞いたことがないと思った。「今の話しをリカさんにしてください。二人は将来を考えてつきあっているのでしょう?だったら、二人で乗り越えるべきことのはずです。私はお二人の幸せを心から願っています。ずっと前にも、言ったように。」電話の向こうはやや慌てるように取り繕うように話していたと思うけれども、覚えていない。私は電話を切った。力が抜けた。自由になったのだ。


以来、連絡はきっぱりと止めた。その後一度か二度電話があったけれど、忙しさを理由に切った。電話が途絶えて数年後、ショウさんとリカさんが結婚したことを聞いた。良かったね、と心から思った。もしかしたら二人のゴールインに、私も100分の1くらいは寄与できたかもしれない。


夢から醒めた、恋。

10歳年上のあの人は私にとっては全然スーパーヒーローではなかったが、お陰で気づいた。


本当に愛するべきは、誠実な人。そして真実を伝えることが出来る人だということに。


気持ちをうまく伝えることができなかったり、考えすぎて不器用になったりと、恥多き人生を歩んでいる自分だけれど。でも、自分自身が真実でいる努力を続けるなら、いずれ本物を見分ける力が備わってくるということを、実感できたのだ。


だから、とても感謝している、今はね。


Be ambitious, boys and girls!




夢から醒めた恋 完

Be ambitious, dear friends.

現役英語講師の頭の中。