夢から醒めた恋③

ショウさんと電話が繋がったのは、それからしばらくしてからのことだった。

私たちはごくたまに電話で話すことがあった。といっても、何か特別に急な用事があるときのみ。でも私からは電話はしなかった。勇気を持てなかったのだ。


ショウさんのライブの前々日の夜、私の携帯が鳴った。「駐車スペースだけどね」と、彼は言った。会場のはあまり大きくないので知人がオーナーをしている近くのカフェの駐車場を一部借りているんだ、だからそこに停めたらいいよ。私は礼を告げてから、尋ねた。「アキさんも来る?」共通の友人だから会場で会えたら嬉しいし、と言う私にショウさんは「来ると思うよ。」と答えた。


私はそのままさりげなく「実はこの間アキさんとお茶したんだ。ショウさん、つきあっている人がいるんだってね。」と告げた。「私、全然知らなかったよ。」できるだけ軽い口調で続ける。が、鼓動はにわかに早くなった。「教えて欲しかったのになぁ。」そう言いながら私は、急に心の内で冷静に“ショウさんにとって私はどんな存在なのだろう”と分析を始めた。


異国でメールのやりとりをしていた人、帰国してからはたまに深い話しもしつつメールを続けて、ごくたまに電話で話して、一度だけ会った…。もしかして私はショウさんの友達ですらないのでは?だったら、彼女の存在を私に告げなかった理由を問うこと自体、余計なお世話かも知れない。ちょっと青ざめた。要らぬ詮索で彼と距離ができてしまったらと思うと、後悔した。


ややあって、電話の向こうからショウさんの声が聞こえた。「あ~…聞いたんだ…。」どことなく歯切れが悪い。「いや、彼女とはつきあって一年経たないけど、友達だった期間が長くてね。今、少しずつ向き合ってる感じ。まだこれから、かなと思ってる。」よく分からない答えだが、そこに恋する人間のバイアスがかかる。要するにショウさんと彼女はいろいろと気持ちに温度差があり、未完成の関係なのでまだ公にすることをためらっているのだろうと私は解釈した。だから聞いてみた。


「リカさんはどんな方?」「いい子だよ。ちょっと優しすぎるというか、心が弱いところがあるかな…」私は思い切って伝えることにした。「私はショウさんのことを大切な存在だと思っているから、ショウさんが幸せなら嬉しい。でももしショウさんも私のことを友達だと思ってくれているなら、彼女がいるってこととか、話してほしかった、です。」


ショウさんは「そうだね、ありがとう。」と言い、付け加えた。「俺にとってYは友達ではないな。カテゴリに入れるとしたら、妹かな。」


妹。そのポジションは私の気に入った。彼女にはなれずとも、妹なら、変わらずそばに居られる。しばらく“失恋”で落ち込んでいた自分の心に太陽がパアッと照ったように感じた。
うん、いいかも!


(続く)

Be ambitious, dear friends.

現役英語講師の頭の中。