ショウさんとのやりとりはそれからも続いた。
アメリカにいたころと同じ、メールで。
ショウさんからのメールは週に一度か二度、送られてきた。内容は、今仕事で関わっているプロジェクトの楽しさについて、やっかいな上司に苦労していることについて、次に開催するライブの日程とお誘い、離れて暮らす両親に送る贈り物について…。私には想像もつかない話しも多かったけれど、ショウさんからのメールの通知を見る度に心が躍った。開いて読む瞬間はワクワクしたし幸せだった。それだけでよかった。
私が返信した内容は、今度講師の面接に行くから頑張るつもりだとか、通っているアルバイト先で初めて任された仕事が難しいけどやりがいがあるよとか、身に付けた英語をもっと磨きたいから何かお勧めの勉強方法があれ教えてくださいとか、そんなこと。そして彼が書いた苦労談に対しては「Don't worry, I know you can deal with it. Trust in yourself.(心配しないで、あなたならできるはず。自分を信じて。)」などと結んだ。全然アドバイスになってないけど。
私はアメリカでやりとりしていた頃と変わらないさりげなさを装いながら、いつも慎重にとても丁寧に言葉を選んでメールを書いた。彼の目に映る自分を良く見せたくて背伸びをしていたとも言える。なぜなら、私にとってのショウさんは、知識も経験もあり、仕事や趣味も充実していて人間関係すら易々とこなす「スゴイ人」。彼を知るほど彼が遠いところにいるかのように、だから自分が彼には全く相応しくないように感じられたのだ。かつて友人が言った「彼はスーパースター」という意味を理解したと思った。
ところでその友人はアキさんと言う。少し年上の頼りになるお姉さんといった存在の彼女と久しぶりに会った日、アキさんはかの「スーパースター宣言」のついでにもう一つ、爆弾発言を私の頭にぶち込んでくれた。「Yちゃん、実はショウさんには彼女がいるの。でも、私にとってショウさんは特別な人でね。不思議だけど、私と彼はいつか結ばれる気がしている。」なんですと?
ショウさんには彼女がいた。リカさん、26歳(と後で聞いた)。2人は一年ほどのつきあい。その上ショウさんを紹介してくれた友人のアキさんは、ショウさんに恋をしている。さらにアキさんの話しでは、ショウさんのことを「私の運命の人かも」と信じる女の子を他に何人も知っているとのこと。
衝撃の情報が一度に頭を巡ったせいで、私はただ呆然とするよりなかった。ボンヤリしたまま、アキさんの手前、これまで以上に自分の思いを隠す必要が出てきたなと思ったのだった。
それにしてもなぜショウさんは、彼女がいることを私に言ってくれなかったのだろうか。
本人に聞きたい、と思った。
(続く)
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