20歳のころ、10歳上の人に恋をした。
私の渡米が決まった時、友人の女性が「友人がロサンジェルスに住んでいるから、困ったときがあれば。」とある人の連絡先をくれた。彼は日本で士業と呼ばれる職についていた人で、ロスには修行を兼ねた留学で訪れているらしい。半年ほどしてもらった連絡先の存在を思い出した私は、特に困ったことがあったわけではないが、その人にメールをしてみようと思い立った。ほどなく相手から「アキさんの友達だね、連絡があるかもと聞いてたよ。」と返事が来た。だから私は「メールとはいえ日本の方とお話しできるのは心強いです。」と返した。
こうしてショウさんとのやりとりは始まった。大した内容ではない。課題のレポートが多くて大変だとか、大学の冬休みはカナダにいくとか、日本食が懐かしいとか、ハロウィンパーティのコスチュームのアイディアとか、なんということもないメールの往復。文字だけのやりとりは一年ほど続いた。
ショウさんは、先の友人の言葉を借りるなら「スーパースター」だった。とにかく、何でもできる。英語はネイティブ並に流暢で、留学先のスクールで優秀な成績を修めていた。仕事が出来るので部下や後輩の信頼も厚い。また、趣味で音楽活動をしており、作詞作曲もこなした(実は今でも彼の関わった楽曲を動画サイトでたまに耳にするときがある)。加えて長身で甘く整った俳優のような面立ちをしていたため、常に周りの人を惹きつけて止まなかった。いつだったか、ライブで彼が歌い出したとたん、そこにいた女性達が一斉に憧れと羨望のまなざしになったのを見て驚いたことがある。そういう意味では「スーパースター」だったことだろう。
帰国後、ショウさんと初めて顔を合わせることになった。私が大学を卒業してまもなく、彼も修士号を取得し帰国したのだ。お礼を兼ねてお会いできれば嬉しいのですがと伝えた。待ち合わせのカフェでショウさんを見た時はちょっと感動を覚えた。文字を通してしか知らなかった相手が実際に目の前にいることが不思議だったのだ。私はアメリカの話しや日本に帰ってからのこと、様々なことを報告した。すぐに打ち解けられたのはそれまでのメールのやりとりがあったからだろう。
途中でもう一度コーヒーを注文したショウさんに私は「日本のコーヒーって苦くないですか。私は紅茶派。」と言った。「コーヒーが飲めないってことは、お子ちゃまかな?」とショウさんがからかう。お、この感じを覚えてるぞと思った。そうだ、彼のメールだ。時々私をかなりの年下扱いするところ。「違います!私は紅茶が好きなんで~す!」とやや大げさにすねてみせた瞬間、ショウさんの笑いをこらえたような表情が目に入った。
多分その一瞬で好きになったのだと思う。
我ながら単純だよなぁ…とちょっと呆れる。でも。
恋なんてそんなものかもしれない。違うだろうか。
(続く)
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