事実は小説よりも。 【バイト編①】

コンビニのスタッフは店長と社員1人を除いて、全てが学生だった。


私と同じ頃にアルバイトに入ったスタッフは6人。全員が同い年。高校を卒業後は大学と専門学校に行くのがそれぞれ2人ずつで4人、就職するのが1人、そして私(留学)だった。


6人とも平日か週末の午後から夕方、あるいは夕方から深夜にかけてがメインだったので、一緒に働くことが多かった。私たち男女3人ずつのグループは自然と仲良くなり、仕事のオフ日をこっそり合わせて、よくみんなで出かけた。行き先はどこかって?大抵は誰かが取得したての免許で運転してくれる車でドライブしたり、ご飯を食べたり、カラオケに行ったり、ボーリングしたりとか。盛り上がった帰り道はなんとなくサヨナラするのが惜しくて、公園で延々と話したりもした。夏には花火もしたっけな。


短期間だけどその人の教育係をしていたため、私たちは一緒にシフトに組まれることが多かった。最初こそレジ打ちに戸惑っていたその人も、2週間もすれば慣れ、店にとって頼もしい戦力となった。実際、その人は大学を卒業するまでの4年以上をそこで働いていたので、最終的にはアルバイトリーダーを任されるまでになった。


多忙な時は息つく暇もないコンビニだけど、たまに不思議な程お客様が来られない、奇跡のような静かな時が訪れる。そんな時は普段は避けがちな、やや面倒な業務(揚げ物用の深いパンの油を変えるとか、店中の床を隅から隅まで丁寧にワックスがけをするとか、ドリンクの補充を徹底してするとか)をのんびり行う。それは、スタッフたちが軽いおしゃべりを楽しむことができる、ちょっとした幸運の時間でもあった。気の合うバイト仲間に部活時代の武勇伝(!?)とか、好きなミュージシャンのこととか、入学する予定の学校とか、聞いては話すのが楽しかった。


アルバイトで週に3回はその人と顔を合わせていたその頃には、手紙のやりとりはほとんど終わっていた。あの夏祭りの時を含めずいぶん打ち解けてきたはずなのだけど、それでも二人の間にはまだ遠慮というか、なにかぎこちない空気感が存在していたように思う。例えるなら、密かに憧れていたクラスメイトと初めて隣の席になり、ようやくなんとか、会話できるようになったような感じ?本当に楽しく嬉しいはずなのに、どこか不器用さがつきまとったのだ。が、居心地が悪かったわけではない。たぶん互いのことを思いやるがゆえなのだろうと私は理解していた。今振り返っても、大きく外れてはいなかったと思う。


それでいい、と考えた。ひところは顔を合わせることも話すことも諦めた相手だったのだ。その人と、同じ場所で共に時間を過ごせている。文章だけではない、互いの顔を見ながら、思い出を共有したり、今の気持ちを分かち合ったり、まだ見ぬ未来を想像できたり、するのだ。醒めないでいてほしい素敵な夢のように感じられた。


2月のバレンタインデーの日。店長や先輩、その人を含めたバイト仲間たちにチョコレートをプレゼントした。当時ちょっとハマっていた、チョコクッキーを大量に焼いたのだ。この楽しい日々が続きますように、と願いを込めて。その人とずっと仲の良い友人でいられるならば幸せだなと思った。それ以上、何を望むことがあるのだろう?


今思うとその頃から、その人と私には、少しずつ、思いにズレが生じてきたのであった。いえ、本当のことを言えば、私たちがすれ違わずにいられた時はなかったのかもしれないのだけれど。


バレンタインから1ヶ月後、3月13日の夜。その人から電話が鳴った。

(つづく)