事実は小説よりも。【中学生編①】

中学生になったとて、何かが変わることもないだろう。と思っていた。


小さな田舎町では、小学校の同級生がそのまま中学校に上がる。まぶたが腫れるほど泣き、別れを惜しんだ卒業式の3週間後、見慣れた顔と中学校で再会するのだ。何を目新しく感じられるというのだろう。


しかし、入学式の朝、真新しい制服に身を包んだ同級生たちは、いつになく大人びて見えた。小学校とはまるで違う、大きな校舎、教師たち、たくさんの先輩・・・を目にする内に、中学生になった実感がじんわりとわいた。


入学式当日、嬉しかったことと残念だったことがある。


また、その人と同じクラスになれた。席が遠いわけでなかったので、「一緒のクラスだね!」とこれまでと同じ調子で話しかけたのだけど、チラッとこちらを見て「あ、うん。」とだけ返された。そっけない。大きめの学ランを着ているその人は、今までと違う印象だった。なんとなくもう、小学校のノリで話しかけるのはダメなのかも・・・と悟った。同じクラスになれて嬉しかったけど、少し前までは半径2メートルの範囲にいたその人が、初めて遠く感じられた。


1年生の夏、キャンプ合宿が行われた。ウォークラリーで迷ったり、なかなか火が付かないかまどにやきもきしたり、協力してカレーを作ったり・・・楽しい時間はあっという間に経つ。


夜のメインイベントはキャンプファイヤーだった。大きな火を真ん中に、様々なレクリエーションを楽しんだ。ふと気づくと、その人が隣にいた。入学式以来、どことなく距離を感じていたから、珍しいと思った。キャンプファイヤーの盛り上がりが最高潮の時だ。思い切って話しかけた。「ちょっと話そ?」勇気を出した私を褒めて欲しい。瞬間、その人は私を振り返った。炎に照らされた表情は怒っているように見えた。ムッとした顔で「なんで俺が」とだけ答えて立ち去った。あっけに取られる私。何それ、ひどくない!?

きっと『なんで俺が、Yなんかと話しをしないといけない?』とでも言いたかったのだろうか。ムカついた。なんて奴。前はあんなに仲が良かったのに!それすらなかったことにしたいのかよ!心の中で散々悪態をついて、それからしゅんとした。傷ついたのだ。以来、もう、その人を忘れることにした。


中学生の毎日は忙しい。

ケンカをしようが、失恋しようが、部活や定期テスト、学校行事は日々お構いなしに追いかけてくる。やがて秋。文化祭のシーズンとなった。私たちのクラスはグループに分かれて興味のある国の文化について詳しく調べ、展示物を教室内に飾り付けることとなった。放課後に資料を元に模造紙に調べたことを飾り文字で書き付けたり、関連付いたイラストを描いたりするのだ。


その日は体育館での作業だったのだけど、忘れ物をした私は、ひとり教室へ急いだ。誰もいない教室で自分の机の中を覗き込んだとき、見慣れないものをみつけた。不思議に思ってそれを手に取る。2回ほど折られた、便せんだ。これは、手紙?中を開いてみる。そこには結構整った、でも自信なさげな薄い文字で、短い文がつづられていた。


『キャンプの時は、ひどいことを言って、ごめん。』


差出人の記載はなかった。でも、誰なのか分からないはずはなかった。けれど、その謝罪を受け入れられるほど、私は素直でも大人でもなかった。何を今さら、という気持ちが強かった気がする。当時一番仲の良かったりっちゃんに話したら「〇〇くん、後悔してるんだよ。あの時は恥ずかしかったんじゃない?」とか至極もっともなことを言ってくれた。そうなのかなぁ・・・とぼんやり、思い出したけど、あのキャンプファイヤーの時は本当に悲しかったのだ。だから、その人をできるだけ避けるようにして来た。白紙に戻すには、すでに心が遠くなりすぎていた。


そうこうしているうちに中学2年生になった。その人と私が同じクラスになることは、二度となかった。

(つづく)