親愛なるU先生へ

前略
U先生、残暑お見舞い申し上げます。

先日、生徒会メンバーのひとりと顔を合わせる機会があり、先生のことを思い出して懐かしくなりました。その節は本当にお世話になり、真にありがとうございました。

U先生は、いつも白衣を着た化学の先生でした。高校二年生で習った化学は当時の自分には難しくて難しくて、とても苦手でした。とはいっても、周りの生徒も似たり寄ったり。テストの度、ひどい平均点をご覧になって先生は心をお痛めになっていたことでしょう。学生時代は勉強さえしてれば良かったのだからもっと真剣に化学に取り組むべきだったと、今、後悔しています。


U先生が生徒会の顧問になられた時、最初は少し緊張していました。私は授業での先生しか知りませんでした。口数は少ないけれど大柄で常に白衣を着ていて迫力のある先生を、ちょっぴり怖いと思っていたからです。でも、それは私の誤解でした。

私たちが会議中、熱くなりすぎて喧嘩状態になった時でも(しょっちゅうでした)、先生はいつもただ黙って見守っていてくださいました。大人がよくする分別臭い説教は絶対にされなかったです。遅くまで語り合ってヘトヘトに疲れた私たちに「これで何か食べろ。」と、財布から幾ばくかの駄賃をくださったことも一度や二度ではありませんでした。お腹を空かせた高校生たちにとって、どんなにありがたかったことか。頂いたお金で後輩が買って来てくれたコロッケの味は今も忘れられません。

生徒会は時に、生徒たちからも教師たちからも、誤解され疎ましがられたものでした。例えば文化祭の取り組み。前年度の先輩がライブ中にオーバーヒートし過ぎてしまったために「今年はバンドによるライブは全面禁止、ついでに模擬店開催も中止。」と教師側から通達がありましたね。そのことを生徒会から全校生徒に伝えましたところ、一斉に非難の声が上がりました。「文化祭にライブなしとか、ありえないだろ!」「模擬店が一番楽しいのに!」「生徒会、マジでふざけるな!」理不尽ですね、生徒会の横暴で勝手な決定事項だと思われたのですから。人の気も知らないでとはこのことです。結局私たちは「生徒みんなが願っていることですから」と職員室で頭を下げて頼み込み、ライブと模擬店の禁止を解いてもらいました。生徒と教師の板挟みになったあの苦労を知っているのは、私たち生徒会とU先生だけだったでしょう。少なくとも先生は「良かったな」といってくださいました。

卒業して数年後、何かのテレビ番組で母校が映り、U先生がインタビューを受けておられるのを拝見しました。大柄だった先生が少しお痩せになった、ご病気だったらしいと同級生が申しておりました。さらに数年後、同級生Kさんの結婚式で先生と再会した時には本当に嬉しかったです。結婚式の帰りの電車で生徒会の思い出や、先生が大病からご回復なさったこと、私が今教える仕事をしていることなどを話しました。先生は「そうだったかな。そんなこともあったかな。」と相変わらず穏やかに聞いてくださいましたね。

別れ際に「元気で頑張れよ」とだけおっしゃった時も特別なことを言われたとは思っていませんでした。次に生徒会で同窓会をするならU先生をご招待しよう、と考えながら電車のホームに立つ先生に手を振りました。それが先生の姿を見た最後となりました。病気が再発して先生は間もなく他界されたからです。


U先生は静かで穏やかでした。
私たち生徒の必要を黙って見守り、必要な時に助けをくださいました。世の中には大きなことを言うだけの輩が大勢いますが、先生は教えてくださいました。黙して語らずとも行動で示す大切さを。

そんなおつもりはなかったかもしれませんが、私は先生のご意志を忘れずにいたいと思っています。そしていつの日か先生に「頑張ったな」と言っていただけるようになりたいと願い、過ごす日々なのです。

草々
Y

Be ambitious, dear friends.

現役英語講師の頭の中。