一期一会~上海編②~

一期一会~上海編①~の続き


足つぼマッサージは、ものすごく痛い。アジアを旅行中、何度も施術を受けたことがあるが、毎回「っっっ~~ああああ痛いいいいいいい!!」と断末魔の表情で叫ばずにはおられない。ほどに痛い。そういえば台北で足つぼをお願いした時の激痛は忘れない。台湾人のマッサージ師が私の両親指の先あたりをつまんだ瞬間、体に電流が走ったね。痛みで。ほとんど涙を流しながら痛いと訴える私に、初老のマッサージ師は「コレ、頭のツボヨ。アナタ、ココ痛イ、頭ガワルイ、証拠ネ~。頭ワルイノネ〜!」と何とも嬉しそうに笑顔で、頭が悪いと繰り返してくれた。頭が悪いでなく使いすぎて脳が疲れていますよ、ってことだろう…私は彼の怪しい日本語を親切に脳内で変換しておいた。


話が逸れたので戻す。


ビルの2階のマッサージ店にはほとんどお客さんがいなかった。平日だから混んでいないのか、元々牧歌的な店なのかはわからないけれど、お陰で静かだった。マッサージも涙を堪えるほど痛むでもなく、心地よいものだった。隣を振り返ると、マッサージを受けた後であろう、中国人のビジネスパーソンが座っている。年の頃は20代後半くらい?スーツのジャケットを脱いでいたのでおそらく仕事帰りなのだろう。そういえば今日私は学校のスタッフと中国語の先生とここのマッサージ店のご夫妻としか言葉を交わしていない。スタッフとご夫妻はあいさつをしただけだし、先生は厳しい方だったので気楽におしゃべりするなんて滅相も無かった。もとより中国語は話せないが…。

無性に誰かと会話がしたくなった私は、旅先特有のフレンドリーさでビジネスパーソンに話しかけることにした。

「こんにちは。よくここ(店)へは来るのですか?」

「えっ、あ、ああ、時々来ますよ」

突如話しかけてきた外国人に驚きつつも、彼が返答してくれたときの嬉しさよ。嫌がられていまいとふんだ私はもうしばらく会話を続けてみた。

「この辺りの方ですか?」

「そう、上海に住んでます。日本人ですか?」

「はい、日本人です。中国語を勉強したくて上海に短期留学しているんです。」

「そうですか、僕はむしろ英語の方を勉強したいです。」

フォンくん(名前)はエンジニアで、上海の企業に数年勤めているというようなことを言っていた。話していて分かったのは、この店は彼の伯父さん夫妻が経営しているらしい。ということは。

「あなたが彼の伯父さんですか?」私は目の前で足つぼマッサージ真っ最中のご主人に問いかけた。ご主人はちょっと目尻を下げて「そう、僕は彼の伯父。息子みたいなもんさ」と言った。それから、ご夫妻には娘がいて(フォンくんのいとこ)、大学生に成り立てで都会に慣れていないから、たまにフォンくんが相談に乗ったり助けてやったりしているのだとか、いつか仕事を転職したいとか、私がなぜ上海で勉強しているのかとか、色々な話しを夢中で聞き、話した。あっという間に時間が過ぎ、「謝謝。」とお礼を言ってビルを後にする。


ひとりになって我に返ると、ちょっと不思議にな気分になった。夕暮れ時、大都市上海の片隅のビルの2階で、もう二度と会わないかも知れない人たちと家族や仕事、夢や目標なんかを語っていたんだということに。楽しくて満足したのに寂しさが追っかけてくるような、旅特有の感情だ。


あの日の出会いは私にとって今も大事な思い出である。

旅は本当に一期一会だ。



次はほんのちょっと残念な出会い。

(続く)

Be ambitious, dear friends.

現役英語講師の頭の中。