北米カナダ、新緑の森の中で過ごした日々

留学中の長期休暇にカナダの友人宅に滞在したことがある。


友人と言っても祖父母の世代のご夫妻。当時70代の二人のご厚意で、クリスマス休暇を過ごさせてもらった。ブリティッシュコロンビア州の半島にあるギブソンズという港町は、中心地バンクーバーからフェリーで行く。同じ州内でも陸路だと遠回りになるのだそうだ。ギブソンズは都会ではなかったけれど、人は穏やかで親切、森に囲まれた美しい町だった。


ホストマザーのジェーンが言うには家の裏の森から時折ひょっこりクマが顔を出すことがあるらしい。ひょっこり、などと書くと可愛らしいが、実際にクマにあったら大変危険である。いつだったか朝食後にぶらっと散歩に行くと言う私にジェーンが「クマに気をつけてね」と言ったことがある。冗談だと思い「OK、出会ったらご挨拶して仲良くなるようにするわ。」と冗談を返した私にジェーンは「Y、本当よ。クマに会ったら、絶対に刺激しないでね、そっと後ずさりするように帰ってくるのよ。」と言った。何それ、ほんとに出るの?怖い。ホストファーザーのブラッドは「クマに遭遇したときのためにね。」とクローゼットの扉を開けて、長い猟銃を見せてくれた。「いつでも助けに駆けつけるさ。」とウィンクをした。ブラッドは狩りが趣味だった。


ギブソンズのみならず、カナダは本当に森が多い。大きくて深い森。手つかずの自然がこれほど豊かに残る土地だから、さぞ多くの野生の生き物が棲(す)むのだろう。


ブラッドとジェーン夫妻は、私が昔お世話になった方の知人の友人のご両親だった。直接会ったことはなかったけれど、彼ら夫妻に初めて見(まみ)えたとき、なんとも言えない包む込まれるような温かさを感じた。まるで本当の親戚か昔からの知り合いだったかのように。


夫妻の毎日はのんびりしていた。運送会社を営んでいたブラッドはすでに引退していた。息子に会社を譲り、たまにその仕事を手伝ったり、森の中で木を切っては何かを作ったりして毎日を過ごしていた。ジェーンは元看護師。リタイヤ後はベッドメイキングやお掃除、お料理を毎日楽しんでいた。二人は平日は家の用事を、土曜日は息子夫婦、娘夫婦の家族や孫達が会いに来るためちょっと賑やかになる。そして日曜は町の教会の礼拝に出席する。静かな日々だった。料理がどうも苦手だった私は掃除やベッドメイキングの方ばかり手伝った。あと、買い物も。カナダのスーパーはものすごく大きくて、訪れるだけでエンターテイメントだった。


ジェーンが作ってくれた料理はどれも好きだったけれど、特に私の気に入ったものがあった。ラザニアだ。平たいパスタとたっぷりのチーズ、挽肉、オニオンがお手製のソースでオーブンで焼き上げられている。初めて頂いたときは美味しくて感動した。ジェーン曰く「これはおふくろの味なのよ。」自慢の料理なのだそうだ。



今ではもう料理が苦手でなくなった私は、たまにラザニアを作る。ジェーン秘伝のレシピではないし、あの美味しさには生涯たどり着けないだろうけど。ジェーンに倣い「これはおふくろの味なのよ。」と言える日が自分にもいつか来るのだろうか。


Be ambitious, boys and girls!

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