ショック!ウエイトレスで大失敗の話し④

数週間もすると、仕事に少しずつ慣れていった。


相変わらずお昼時の「S」にはお客さんが溢れかえっており、休む暇なく働いていたけれど、継続は力である。少しずつ「今すべきこと」が分かってきた。故に初期の頃ほど悲観的な気持ちは減ったと言える。ただし、失敗してはならないとのプレッシャーから仕事を楽しむまでには至らなかった。だから「S」へ向かう足取りは軽いとは言えなかった。


足取りを重くした理由がもうひとつある。

例の男子学生。調理係の彼は、おそらく近隣の大学2回生だったと思うが、初日から私が続けざまに注文ミスをしまくったせいで、すっかり怒らせてしまった。以来、彼は私が側を通る度に大袈裟にため息をついてみせたり、壁やポリバケツを蹴ったり、鍋のフタをわざと乱暴にガチャンと閉じたり、ゴミ箱にゴミを思いっきり投げ込んだり、とにかく嫌味な感じで苛立ちを表現するのだ。たまに恐る恐る、挨拶をしても無視。顔を合わすのは週に1度程度だが、憂鬱だった。私も「自分がいけなかったから」と自身を責めていたので、感じの悪い態度を取られても黙ってやり過ごすことしかできなかった。


しかし、そんな私が一度だけ反撃に出たことがある。


その日バイトに入った私は調理係に例の男子学生が居るのを知り内心「やだな」と思った。が、仕事は仕事だ、やむを得ない。いつものように騒がしく忙しいランチタイムが始まった。そんな時私の担当のテーブル席のお客様が「やっぱりこっちに変えてもらえる?」とメニューの変更を申し出てこられたのだ。すでに注文を終えた後である。私は「かしこまりました」と言って、訂正を伝えに調理場に向かった。彼は例によってものすごく不機嫌な顔で「ヘ〜イ」と気のない返事をした。こちらは見ようともしない。おそらくまたオーダーミスだと思ったのだろう。前科のある身としては仕方ない。しかし、私はここで初めて腹を立てた。私は気は弱いけど、正義感はそこそこある。我慢してきたけれど、ここまで不当な扱いはおかしいとその時気づいたのだ。私は彼のそばに近づき、相手の顔をまっすぐ覗き込んだ。別に大きな声ではない。たったひとこと、こう言った。


「言いたいことがあれば、面と向かって言えば?」


途端に相手はビックリした表情になり、次に泣きそうな顔になった。彼は「えっ、いや、あの、別に…」とかなんとか、言いたいことを言うどころか、しどろもどろ。それ以上の言葉を発することが出来なかった。何か言い返してくるだろうとの思いは杞憂に終わった。なんだ、自分より弱そうな相手をビビらせて発散していただけの弱虫か。


ひょうしぬけした私はすぐにホールに戻ったけれど、その後、調理の彼は、借りてきた猫みたいにおとなしくなったのであった。以降、私のアルバイトに行く足取りがほんの少し軽くなった。



教訓:気弱そうな人をイジメる輩は大抵、相手よりもっと小心者である。


(続く)

Be ambitious, boys and girls!


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