さらば、エアコン

秋が来た。

近頃私は生徒たちとよくこのセリフを口にするようになった。朝夕が涼しくなり、とても過ごしやすくなった。


今年4月の新型コロナウィルスによる全国的な自粛期間に、私も自宅からの仕事を余儀なくされた。そこで急遽単なるクローゼット兼物置になっていた部屋をひとつ空けて仕事部屋としたのだが、あいにくその部屋にはエアコンを備え付けていなかった。梅雨の頃まではとくに問題はなかったのに、雨の時期が明けると一気に茹(う)だるような暑さがやって来た。それなりにお気に入りの空間に作った書斎は、一気に地獄の一丁目へと化した。


以後一カ月半、私は葛藤(かっとう)と戦うことになる。「エアコンをつけるべきか、否か。」と。その時点で自粛期間はとうに終わっており、わざわざ日中仕事部屋で過ごさずともよくなっていたので、思い切ることが出来なかった。もう2週間待てば、お盆になる…あと1週間待てば、9月になる…と気温の変化に期待しながら、それでも時折はどうしても使わずにはおれない暑い書斎の中で迷った。家族にも何度も相談してみる。「9月入った今エアコン付けるよりは、来年の春の早い時期に付けた方がいいのでない?」というもっともな意見もあったが、それはさらりと流しておいた。そして、9月に入ってもまだ暑さが止まない数日を経て、私はついに「よし、仕事部屋にエアコンをつけよう!」と決意した。しかし、お世話になっている電気店に連絡しようと思っていた矢先の週末、初めて秋の涼風が吹いた。季節の移り変わりを感じた私は「やっぱり自然の涼しさって最高。もうエアコンなんていらない。」とあっさり決意を翻したのであった。


夏は夏でいいものだ。セミの声、入道雲、遠くキラキラとかすむ海。ギラギラとした太陽の下でそれらは夏ならではの輝きをもたらす。しかし、活力いっぱいの季節を越えて、少し静かな気持ちになりたい時、秋がやってくる。暑さで疲れた人の心と体を、澄んだ高い空と涼しい風が癒してくれるように思う。


しばらくこの季節を楽しみたい。


Be ambitious, boys and girls!