私は密かな趣味を持っており、それは詩を書くことだったのだけど、ある日、亜美にバレてしまった。「ええっ、Yちゃん、詩を書けるの!?」すごい、信じられないと彼女は言った。そして実はね、と彼女は続けた。「私、作曲はできるの!」と車の後部座席からギターを取り出した。ギターが弾けて作曲ができる亜美と、歌が好きで作詞が出来る私。驚いたことにその日ほんの20分で私たちの最初のオリジナル曲が完成したのだった。
私たちは意気投合しすぐに二人組のユニットバンドを始め、やがて互いを心の友と呼ぶに至った。底抜けに明るい亜美自身も様々な悩みを抱えていることを私は知った。私たちは全く違うようで、良いものを求めて生きたいという、心のあり方がどこか似ていたのだろう。バンドの活動は数年程度だったけれど、おしゃれなカフェ、芸術会館のホールや町のイベントなんかで、ライブをさせてもらった。音楽的には決して上手いと言えない私たちだったが、作った大切な歌を誰かに届けることに幸せを感じたと思い返す。
時折、ライブでいつもトップに持ってきた、私たちのユニットのオリジナルソングを思い出す。「約束のうた」は最初に出来た歌だ。
思い出して あの日の君
いつか倒れて 明日も見えず
失敗数えて 泣きたい夜は
ひとりじゃない 君と誓ったよね
ほら 信じて もう一度 旅に出よう
約束のうた
約束のうた
I promise you, I promise you...
亜美はこの秋から数年間、とある資格を得るために学校に通う。子育てをしながらの挑戦は生易しいものではないはずだが、長い間暖めてきた夢に向かって一歩を踏み出した彼女の決意に、心から敬意を表する。大丈夫、あなたなら出来るはず。何かあれば、語ろう。笑おう、泣こう、今までみたいにこれからも。
そして、また歌おう。私たちの「約束のうた」を。
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