成人式には行かなかった思い出

アメリカにいた頃に成人式を迎えた。

私は出身が小さな町なのだけど、その町は毎年成人式のために、成人を迎える同級生の有志たちが集まり企画を練る。式典やパーティー会場の手筈はもちろん、お世話になった先生をご招待したり、出席できない恩師のメッセージをビデオレターに作成したり、盛大に準備を行う。

成人式の数ヶ月前から、友人たちからの手紙やメールに「Y、成人式には日本に帰ってくるんだよね?」という問いが増えた。私はその度に「いや、無理だと思う。」と返した。大学は春学期が1月に始まる。長いクリスマス休暇を終え新学期の授業が始まるあたりが、ちょうど日本の成人式の頃だったのだ。私は一つの単位も落とす余裕はなかったので、レポートに自信はなくとも、授業の欠席だけはしないように心がけていた。ゆえに、数日かそこらの休暇をとって日本に帰国する気はさらさらなかった。「あなたの振袖姿を見てみたかったなぁ」と電話でポツリとつぶやいた母にも「成人式の振袖みたいな窮屈で重いモノ、着たくもない。振袖にレンタルするお金があるならアメリカ縦断旅行をする代金にするから、送って頂戴。」などと嘯いた。若気の至りである。

そんなわけで私は成人式のことなど頭から追いやってしまい、故郷も、恩師も、旧友も、小中学校の思い出もみんな忘れて、ひたすら目の前の課題をこなす日々を送った。


数ヶ月して「あなた宛に届いたので送ります。」というメッセージと共に、母からひとつの小包が送られて来た。中を開くと、一冊の文集であった。タイトルは、再開、だったか、メモリーだったか。はっきりは覚えていないが、どうやら成人式の当日の出来事を綴った文集らしい。写真や同級生のひとこと欄、恩師からのメッセージ、実行委員会の裏話などが丁寧にコラージュして印刷されていた。振袖姿やスーツの、懐かしい顔がいくつも確かめられた。

アンケート集計コーナー、というページがあった。成人式に出席した、私の出身町の同級生たちにとったアンケート結果らしかった。「○○町(故郷の町)の好きな所ベスト3」には、自然な豊かな所、人が親切な所、食べ物が美味しい所。「○○町にあったらいいなベスト3」には、書店、ディズニーランド、ショッピングモール、など。あとは「○○町っぽいと思う人ベスト3」(果たしてこれに選ばれるのは、名誉なのか?)、一位の同級生の元気な男子の顔が浮かんだ。これが発表された時は会場が大いに盛り上がったであろう。

ふと、ページをめくる指が止まる。「今、1番会いたい人ベスト3」という項目があったからだ。一位はE先生(途中で教員をお辞めになった中学の人気の先生で、成人式には出席されなかったようだ)、そしてなんと私の名前が挙がっていたのだった。特段、票数が多かったわけではないが、不在の私に会いたいと思ってくれた人がいたことに感動を覚えた。随分のちになって「ああ、そういやYの名前を書いたよ!だって式にこなかったんだもん。」との言葉を友人からもらった。

全てを忘れて新しい土地で人生をスタートするつもりでアメリカに来たけれど、故郷はこんな私を覚えていてくれたのだ。と、思うと涙が滲んだ。英語の環境でひたすら勉強ばかりだった孤独な日々に大きな慰めを得た。



振袖を着なかったことをほんの少し後悔した。


Be ambitious, boys and girls!