数ヶ月前に私の腕時計が壊れました。
あまり腕時計をしない自分にしては珍しく気に入っていたものでした。シルバーのバングル型。シンプルなスクエアフェイスの文字盤にわずかにキラッとスワロフスキーが。カジュアルにもフォーマルにも使えるデザインでとても重宝していたのだけれど、ある日腕にはめるバングル部分がカチリと取れてしまったのでした。
取れた部分からは縫い針位の細い金具がのぞいていたけど、どうすれば元に戻せるか、皆目検討がつきません。修理に出さなきゃと思っている内に、数ヶ月の時が経ってしまいました。ついでがあればと思っていたのだけど、機会を作れないままでした。
が、先日ついに決心して腕時計を修理してもらうためだけに出かけたのでした。目指すはショッピングモール内の修理屋さん。「時計修理のマイスター」といった職人風のオーナーがおひとりでされているお店です。寡黙。目は鋭い。でも仕事は確実、というような。今まで電池の交換をお願いしたことが確か、3回ほどありました。
カウンターの向こう側に姿を現したオーナーさんに私は手のひらにのせた腕時計をお見せしました。「ここのところ(バングル)が突然取れてしまって・・・これって直るものですか?」私の手を見たオーナーさんの目が厳しくなりました。「なんだこれは?!」とつぶやかれ、そのまま引っさらうように私の手のひらから時計を取り、何も言わずに店の奥へ消えてしまわれたのです。あっけに取られる私。
カウンターの奥にはパーティションがいくつか。窓があるので、オーナーさんの様子がちょっと覗けます。なんだか厳しい表情で、手元・・・は隠れて見えないけど多分私の腕時計があるはず・・・の作業に集中している感じ。多分、修理が可能かを調べてくださっているのだろう、と検討をつけた私は、とにかくここで待とうと考えました。
待つこと数分。ついたての向こうからオーナーさんが再び姿を現しました。さっきと全然違う柔らかな表情で「こういう状態だったんですよね」と手にしたそれを見せる。私の腕時計が。「えっ、嘘みたい!」小さく叫んでしまいました。とっても綺麗にバングルがつけられていたからです。「連結部が特殊な部品だったのですが(多分あの針)、それがうちにはなくて。けれど、代用品を使って繋ぐことができました。」オーナーさんは腕時計を受け取ってからずっと、ついたての向こうで修理をしてくださっていたのでした。
私は腕時計をはめさせてもらいました。すごい、元通りだ!!急ぎお礼を伝え「すごく嬉しいです。とても気に入っていた時計でしたから。」と顔を上げた先に、見たことがないくらい、笑顔のオーナーさんがいました。普段は寡黙で厳しそうな雰囲気の方です。きっとプロとしての仕事を全うされた際にしか見せない笑顔なのではないかなと想像し、直った腕時計と同じくらい、感動を覚えました。
世の中にはありとあらゆる職種があります。それらの大半は地道だったり目立たなかったりするものではないでしょうか。大きくても小さくとも、分かりやすく賞賛されることでもそうでなくても。仕事ひとつひとつに心を込めて取り組んでくださる人がいるからこそ、社会は調和を失わないでいられるのだと思います。
目の前の課題にプロ意識を持って働くってかっこいいと思った出来事でした。
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